新社会党は「受け皿」になるか

週刊金曜日1996.8.30より一部引用。

庶民いじめに反対!護憲平和をつらぬく

新社会党委員長(当時)矢田部理氏に聞く 聞き手深津真澄

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P10-11 私たちの基本は護憲平和です。もちろん護憲平和といっても、守りの平和論ではなくて、平和憲法の理念を活かして冷戦後のアジアと世界に平和な関係を積極的に割り出していく、また市民的な自治と民主主義を確立していくなど、現代的に発展させることが問われています。

・踏ん張れなかった社会党

-社会党の変節ですが、具体的にどういう行動がいちばん問題だったとみますか。

最初の大きなきっかけは小選挙区制に賛成したことですね。それ以前は、小選挙区制は民主主義に反し、改憲への道だといってこぞって反対してきたし、事実、小沢一郎さんが自民党の幹事長をやっていた頃には、「この制度を導入して社会党を粉々にしてやる」と豪語していた。この制度に賛成したことが致命的でしたが、選挙制度の改正に賛成したマスコミにも責任があると思う。金権腐敗政治の一掃には企業献金の禁止とか腐敗防止法の制定とかが基本なのに、選挙制度にすり替え、しかも民意を反映しない小選挙区制導入を推進したことは大きな過ちです。さらに旧社会党は、連立政権維持を優先させて、自衛隊合憲・安保条約堅持に大転換した。そのあとは消費税の引き上げや住専のツケを国民に回すこと、さらに原発や破防法にも賛成するなど、納得できる理由や説明もなしに変節を重ね、国民から怒りをかった。

-村山内閣での自衛隊合憲、日米安全保障条約堅持の政策転換については、どのように考えている

のですか。

国会答弁の前の日に村山さんが電話をかけてきて、「安保条約については軍事色を薄めて経済関係を前面に出すような位置づけにしたい」ということと、「自衛隊については違憲というのはいささか難しい」という趣旨の話がありました。五十嵐広三官房長官(当時)からもおっつけ電話があって、「会いたい」といってきた。官房長官は「自衛隊は合憲とするしかない、違憲では内閣がもたない」ということだったので私は大反対した。「そんなことをしたら党の内外に大変な衝撃を与えるし、大きな政策転換を行なうことは了解できない」と言ったわけです。

自民党と政権を共有することになれば、違憲論を閣内で貫くことが難しいのは理解する。だから違憲論は三宅坂(社会党本部)に置いて行ってけっこうです。そのかわり自民党の合憲論も押さえ、違憲・合憲は政権脇議でも議論していないのだから凍結する。現にある自衛隊は憲法ではなく自衛隊法でできたのだからへ総理としては自衛隊法に基づいて無用な摩擦や混乱を起こすことなく掌握するということでいい。社会党の首班なのだから、冷戦終結をうけて自衛隊の大幅な削減をしたらどうかと申し上げました。

衆議院の本会議では結局、自衛隊合憲、安保堅持に打って出て、自民党席からのやんやの喝采で議場が沸くということになって愕然としました。私たちの新社会党の族揚げの一番大きな理由はそれです。

-それにしても、この三年間に社会党は止めどもなく変わってしまったという実感を持つ人が多い。なぜ、社会党は踏ん張りかきかなかったのでしょう。

 自らの政策を生かすことよりも、政権維持を最優先にしてすべてを仕切ってきたということが主な理由ですが、体質的な脆弱さは、いろいろな政策やものの考え方が自分の血肉と化していないことにも原因がある。労働運動などの出身者が多いが、思想とか理念というものを本当の意味で身につけていないんじゃないかという感じがする。だから、納得できない方針が出されても、多少ぐずぐず言うが結局は大勢に従って、政治論や理念、政策といった課題よりも組織論を大事にする。全部とはいいませんが組織論優先型という印象があります。

・臨戦態勢の総選挙

ー広島以外の重点地域はどこですか。

 やはり現職がいる近畿ブロックですね。比例区の定数が三三名という最大の地区ですから、ここはどうしてもとりたい。あとは東京ブロックと千葉・神奈川を含む南関東ブロック。それから、新潟など北陸・信越ブロックでは巻原発の反対運動の成功にも勇気づけられて、布陣がほぼ決まってきています。

 社民党の中にも「政治論は矢田部さんたちとまったく同じだ」という人たちがたくさんいます。例えば沖縄や広島の社民党がそうですし、沖縄社会大衆党は新社会党と一緒にやろうということで、エールの交換などをしております。社民党の国会議員の中にも、私たちと同じ考えの人が何人かいます。この人たちとは沖縄や消費税など重要な政治課題では一緒に進んでいけるし、すでにその取り組みもしています。

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P121つの柱は、冷戦が終わったのですから自衛隊の軍拡や安保条約、核抑止力論も根本的に見直すべきだということです。日本もアジアも、ヨーロッパとは違って依然として軍拡が基調となっていますが、日本とアジア・太平洋に平和と軍縮の時代を作ろうという提起をしています。すでに自衛隊の具体的な軍縮計画を出し、日米安保条約は「ソ連の脅威」がなくなったのですから、この際沖縄の米軍基地撤去などを中心に条約解消に向けた運動を展開することを政治課題にしていきます。

同時に、アジアに共生の時代を開くということが重要です。自衛隊の軍縮とリンクさせて、文民による常設組織を作り、人道支援とか非軍事の国際協力を積極的に推進する。憲法二五条の「健康で文化的な生活」という条文は「すべての国民」が主語になっていますが、日本国民だけではなく広くアジアやアフリカも含めて、すべての人々が健康で文化的な生活を営み、共生できるような時代を作っていこうということです。

 これはただの政治スローガンではありません。私たちはヨーロッパの全欧安保協力会議に学んで、アジア太平洋地域に平和と軍縮と共生のためのテーブルを作るよう国際的な話し合いを進めています。

 また南半球は非核地帯でほとんど繋がったわけですが、この非核地帯を北半球とくに東北アジアにも作っていくことが国際政治の重要課題です。そんなことを含めて、平和論をより現代的なものにしていこうと考えているわけです。

これからの政党は、女性と若者が積極的に参加できるような政党像、あるいは政策的な魅力がなければ未来はないと思います。少し主観的かもしれませんが、平和論は女性には好意的に受け止められていると思います。もう一つ、護憲平和の議論を、自衛隊をどうするとか安保条約をどうするといったハードな部分だけで見ないで、ソフトな課題といいますか、環境・人権・飢餓・貧困・難民といった平和を脅かす要因のようなものをできるだけ解決していくといった面で、若者たちはかなりの関心を示している気がします。

ー内政面での新社会党の基本的な主張を聞かせて下さい。

  護憲平和の党ということで旗揚げをしました。それらの理念を追求するのは当然ですが、新社会党は同時に働く者と市民の立場に立つということを明らかにしています。主張としては資本の論理、強者の論理を抑えて公正な社会を作ろう、働く者と市民の人権や福祉を重視した時代を切り開こうということです。

 高齢化社会と介護、「従軍慰安婦」をはじめとする戦後処理のけじめなど、非常に積極的な意見が出ました。次の総選挙では沖縄の基地問題を中心に平和と安保の課題、消費税反対、高齢化社会に向けての公的介護の拡充などを中心のテーマにしたいと思っています。

-「革新」あるいは左翼の伝統なども受け継ぐのですか。

私たちはそれ(総保守化)に抗して住専処理や消費税に反対し、国民の暮しと民主主義を守ろう、安保や自衛隊も認めず、憲法九条の不戦・非武装の世界を広げ平和をつくろうということですから、それを皆さんがどう呼ばれるかば自由ですが、いわば今の体制とは大きく違った平和・人権・民主主義を基軸にした新しい社会への政治を、政策の面でも運動の面でも作っていきたいというふうに考えています。 

また、社会党の歴史を継承するということで社会主義をどう考えるかという問題があります。それは綱領的課題として議論を始めております。ソビエト・東欧の社会主義の失敗をどう総括するのかそこから教訓として何を引き出すのかということもあるし、ヨーロッパ社会民主主義が到達した社会保障などの経験も学ばなければいけない。全党的な参加と多くの学者・専門家の協力をいただいて、また各界のご意見をいただき、歴史の批判に耐えられるものを時間をかけて作っていくことにしています。

ー考え方は共産党とかなり近いと思いますが、共産党との関係はどうしますか。

 政策課題ではかなり共通の部分があると思います。自衛隊や安保条約に反対することや、消費税や住専に予算をつぎ込むことには賛成できないというようなことです。もちろん政党としては、国際関係の理解や外交政策、民主主義のあり方などにかなりの違いはありますが、あまりここで違いを強調することがいいとは思いません。いま違いを言い立てるよりも、総保守化の中でこのままいくと、集団的自衛権の容認や自衛隊の海外派遣が公然と進められて、解釈改憲からやがて明文改憲にも進みかねないという危険も高まっています。その意味で護憲か改憲かという大きな政治選択を、国民に問う政治決戦として総選挙を考えなければいけないし、〝総保守の政治に風穴を〞というのか私たち

の決意です。(一九九六年八月八日 参詣院議貝会館にて)

やたべ おさむ・一九三二年茨城県生まれ。七四年以来参議院議員(茨城県選出)。政治腐敗追及や外交防衛威厳・水俣病問題などで活躍。旧社会党で外交政策調査会長・参院議員会長など。九六年新社会党結成、委員長。弁護士。

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Posted by tatubuu