スパイ防止法の議論 前のめりな姿勢を危ぶむ,毎日社説10.3
政府のインテリジェンス(情報収集・分析)機能強化を検討する有識者会議が発足した。高市早苗首相はかねて、スパイ防止法の制定に前のめりな姿勢を示しており、来年の通常国会での法案提出を目指す。国民への監視が強まることを危惧する。
これに先立ち、自民党が提言をまとめた。外国勢力からの不当な干渉行為に刑事罰を科すことや、ロビー活動などを行う「外国代理人」の登録義務化を盛り込んだ。ただ、刑罰の対象となる行為はあいまいだ。制度設計次第では通常の企業活動や学術研究、報道まで萎縮させる恐れがある。
とりわけ通信傍受の拡大を打ち出したことへの懸念は大きい。現在は一部犯罪の捜査に限り、裁判所の令状を取って実施されている。提言では、対象にスパイ防止法違反や特定秘密保護法違反を加えると記載した。将来的には、安全保障目的の通信傍受を令状なしで可能にすることも検討する。
憲法21条が保障する通信の秘密や、プライバシーを脅かす恐れがある。スパイとの接触を探るという名目での一般市民の監視につながりかねない。
戦前・戦中には、スパイ防止や軍事秘密保護などのため、治安維持法、軍機保護法、国防保安法が作られた。特別高等警察や憲兵による恣意(しい)的な取り締まりで重大な人権侵害を引き起こした。
戦後も警察や自衛隊が国民を監視した事例が後を絶たない。イラク派遣や発電所誘致を巡り、市民の個人情報を違法に収集していたことが明らかになっている。
今年7月には、陸上自衛隊中央情報隊の対外情報部門が多数の有識者を対象に、愛国心や性的嗜好(しこう)などの情報を無断で収集していたと熊本日日新聞が報じた。
今後の議論で欠かせないのは、情報機関の暴走を防ぐ民主的統制のあり方だ。
情報収集や分析の過程を記録させ、権限の乱用や人権侵害がないかを第三者が厳格にチェックする仕組みが必須だ。欧米には、議会や独立機関が情報機関を監督する制度がある。
安全保障と国民の自由は往々にして緊張関係にある。危機をあおる一方で、個人の権利をないがしろにすることは許されない。









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