【第1回】日本最大のタブー…自衛隊「別班」の存在が明らかになったある事件とは,7.26クーリエ・ジャポン
2026.7.26courrier japan
Text by 石井 暁
TBSドラマでクローズアップされた「別班」。だが、実在する「別班」とはどのようなものなのだろうか? 『VIVANT』の参考文献ともなった著書の作者・石井暁にその全貌を語ってもらった。
別班員を養成する現在の陸上自衛隊情報学校の心理戦防護課程は旧陸軍中野学校の後身にあたり、別班は旧軍の特務機関の後身と言える部隊だ。
元別班長の平城弘通の出版した『日米秘密情報機関「影の軍隊」ムサシ機関長の告白』によれば、1954年ごろ、在日米軍の大規模な撤退後の情報収集活動に危機感を抱いた米極東軍司令官のジョン・ハル大将が、自衛隊による秘密情報工作員養成の必要性を訴える書簡を、吉田茂首相(肩書は当時)に送ったのが、別班設立の発端だという。
その後、日米間で軍事情報特別訓練(MIST=military intelligence specialist training)の協定が締結され、1956年から朝霞の米軍キャンプ・ドレイクで訓練を開始。1961年、日米の合同工作に関する新協定が締結されると、「MIST」から日米合同機関「ムサシ機関」となり、秘密情報員養成訓練から、情報収集組織に生まれ変わった。「ムサシ機関」の日本側メンバーは、陸上幕僚監部2部付で、実体は2部別班。この時が「別班」誕生の瞬間だった。
非公然組織であったはずの別班の存在が公に知られたのは、1973年8月8日の金大中拉致事件がきっかけだ。軍事独裁政権下にあった1971年の韓国大統領選挙において、現職大統領の朴正熙(パク・チョンヒ)に野党候補として肉薄した金大中が白昼、東京・飯田橋のホテルから拉致され、殺害される危機に直面したものの、5日後、韓国・ソウル市内で解放された。警視庁は当時の韓国中央情報部(KCIA)が関与したと発表し、在日韓国大使館の一等書記官に出頭を求めたが、外交特権(不逮捕特権)に阻まれて帰国されてしまった。
この国際的な拉致事件で、事前に金大中の張り込みを担当したのが、「ミリオン資料サービス」のメンバーだった。同社は、金大中事件のわずか1ヵ月前の1973年7月1日に退職自衛官らが設立したばかりの興信所で、しかも所長の元3等陸佐・坪山晃三が別班のメンバーだったことを、評論家の藤島宇内が「週刊現代」で初めて指摘したのだ。
こうした経緯にもかかわらず、政府は別班発足以来、一貫して「過去も現在も存在しない」と否定し続けてきた。2013年11月28日付朝刊用に共同通信社が「陸自、独断で海外情報活動/首相、防衛相に知らせず/文民統制を逸脱/自衛官が身分偽装」と見出しを付けた特ダネ記事を配信した後の対応も同じだった。
28日午前に記者会見した官房長官の菅義偉(すが よしひで)は「陸上自衛隊にこれまでも存在していないし、現在も存在していない、と防衛省から聞いている」と慎重な表現ながらこれまで通りに否定した。翌29日には防衛大臣の小野寺五典も記者会見で、「陸幕運用支援・情報部長等にも陸幕長を通じて確認いたしましたが、『そのような組織は自衛隊に存在していない。現在もありません』ということの報告を受け、確認させていただきました」と答えただけだった。
さらに政府は2013年12月10日の閣議で、陸上自衛隊の秘密情報部隊「別班」が独断で海外での情報活動をしていたとの報道に関する質問主意書に対する答弁書を閣議決定。この中で「これまで自衛隊に存在したことはなく、現在も存在していない」と断言した。
記事を出稿する直前、別班員の安全を考えて事前通告を行った記者に対し事務方トップの防衛事務次官西正典は、「別班が存在するとは聞いていましたが、海外に展開しているとは正直言って知りませんでした」と正直に認めたにもかかわらず、だ。
このことについてある防衛省の背広組の幹部は「別班発足以来、政府は一貫してその存在を否定してきた。いまさら『よく調べたら存在しました』と言うわけにはいかなかった。将来どういう形で認めたらいいのか、わからない」と正直に説明してくれた。
TBSの『VIVANT』が話題になっていた2023年、自民党国防族の重鎮で防衛庁長官、防衛大臣を務めた石破茂が週刊文春のインタビューで別班について、「存在はしています。ただ『これがそうだよ。大臣見てください』ということは一度もありません」「自衛隊の組織図上も出てこないはずですよ。だから大臣が『存在します』なんて言ったら結構大変なことになるよね。でも、それがね。『なきゃおかしいだろう』と」と発言し、防衛省・自衛隊を震撼させた。記者も「これで真実が明らかになるのかもしれない」と期待した。
しかし直後のTBSのインタビューでは石破は別班について「あるともないとも言えない」と大幅に後退。世界の国々では非合法な諜報活動が行われているとし、日本にも秘密保全や文民統制を取った上で諜報活動を行う機関は必要との認識を示した。石破発言が短時間に後退した背景について自衛隊の情報幹部は「関係者から、発言に注意するよう言われたか、脅されたのだろう」と推測した。おそらく、そのどちらかなのだろう。(続く)
石井 暁(いしい・ぎょう)
1961年8月15日生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。1985年共同通信社入社。現在、編集局編集委員。1994年から防衛庁(現・防衛省)を担当。安全保障問題を中心に、自衛隊のルワンダ難民救援活動、環太平洋合同演習(リムパック)、北朝鮮不審船事件、イージス艦情報流出事件、元防衛事務次官汚職事件、尖閣諸島領有権問題、北朝鮮ミサイル発射・核実験、南スーダンPKO日報問題などを取材。月刊誌『世界』(岩波書店)に「日中軍事衝突をどう回避するか」(2013年6月号)、「陸自「別班」危険な暴走」(2014年3月号)、「台頭する自衛隊制服組」(2015年5月号)などを寄稿。



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