陸自部隊の情報収集 「愛国心や性的嗜好は記録する必要ない」「身分隠して収集なら違憲の疑い」 木村草太・東京都立大教授に聞く,熊日7.25

熊本日日新聞 2026年7月25日 22:30
陸上自衛隊中央情報隊(東京・埼玉、朝霞駐屯地)の対外情報部門「現地情報隊」が、日本人の大学教授らを対象に思想信条などの個人情報を組織的に調査・収集しているとみられる問題が浮上している。「愛国心」や「性的嗜好[しこう]」などの情報収集は、プライバシー権を侵害していないのか。東京都立大の木村草太教授(46)=憲法学=に聞いた。(聞き手・迫田真帆)

 -現地情報隊が民間人の愛国心など極めて個人的な情報を収集し、保管しているとみられます。

 「目的を明確化し、必要な範囲で内心を調査するのは自衛隊の任務として正当化され得る。ただし、収集手段や管理が適切でなければ思想弾圧につながりかねない。過剰な情報収集はプライバシー侵害にもつながる。愛国心の情報を収集・保管する場合、目的外利用の禁止と漏えい防止を徹底しないと、弾圧的な利用の危険が生じる。思想弾圧は始まると止まらない。抑制的であるべきだ」

 -なぜ自衛隊が愛国心などの情報を必要としているのでしょうか。

 「今回のデータベース(DB)は、各地の情報に精通した相談相手候補のリストに見える。愛国心などの情報は、相談相手として、信頼できる人物か見定めるために記録したのではないか。ただし、接触したいなら本人の連絡先や経歴、専門分野を盛り込んだデータで十分だ。信頼できなさそうなら、リストに掲載しなければいい。愛国心や性的嗜好を記録する必要はないはずだ。こうした個人データ保護の原則が自衛隊内に浸透していないことが問題の根幹だ」

 -現地情報隊は身分を隠して調査対象者に接触するケースもあったとされます。

 「身分を隠して、あるいは虚偽の目的を告げて、プライバシー情報を収集していたとすれば違憲の疑いがある。『行政機関の長等は、偽りその他不正の手段により個人情報を取得してはならない』と定めた個人情報保護法に違反する可能性もある」

 -収集した情報は「個人BSD(ベーシックソースデータ)報告書」にまとめているようです。

 「1980年に経済協力開発機構(OECD)が採択した個人データ保護などに関するガイドラインでは、DBを作るときは、個人情報の収集目的を明確化し、その利用・収集をその目的の範囲に限定すべきだとしている。憲法13条からは狭い意味でのプライバシー権に加え、個人データの適切な処理を請求する権利も導かれる、とする議論も最近では有力だ」

 -自衛隊の情報収集活動を巡っては2016年に仙台高裁が活動の違法性を指摘しました。

 「仙台高裁では、公にされていない本名や職業などを収集したことについては違法と指摘したが、DBの管理・処理・漏えい対策の適正に焦点を当てなかった。DBの作成は目的外使用のリスクをはらみ、弾圧の例のように、差別的な不利益を受ける危険を作る」

 -BSD報告書は公文書として扱われていないといいます。

 「隊員の私的なメモなどとは考えにくい。公文書として扱い、憲法や個人情報保護法に則り適正に管理すべきだっただろう。目的を特定し、目的達成に関連ある情報だけを、適正な方法で集め、目的外利用は厳禁し、正確さを保つなど順守すべきルールは多くある。漏えい対策や管理責任者の設定などセキュリティー面も問題だ。アクセス権者や保管場所などを決めて適切に管理すべきだ」

 -自衛隊はこの問題にどう向き合うべきですか。

 「個人情報保護法などの順守を徹底する意識が低い。ルールを守らなければ国民の信頼を失いかねない。非難の目が向けられ、協力が得られにくくなると自衛隊の情報収集活動はしにくくなるだろう。雑な情報管理がされることは、安全保障の観点からも好ましくない」
 きむら・そうた 1980年横浜市生まれ。東大卒。2016年から東京都立大教授。憲法学者。「増補版 自衛隊と憲法」など著書多数。