家永三郎 戦争責任を考えることの意味ー教科書問題と私の闘い、週刊金曜日
週刊金曜日37号P40~41引用。
過去を反省するな。という検定権者の思想
政界・財界からの鞭撻でふたたび強化された検定
私が、戦争中の日本が植民地・占領地でどんなひどいことをしたかを、包括的具体的に知るようになったのは、一九六〇年代末から起草にとりかかり六八年に公刊した『太平洋戦争』執筆過程においてであった。この本では、今日問題となっている従軍慰安婦のこととか、七三一部隊とか、シンガポール華僑の大量虐殺とか、朝鮮・台湾での皇民化政策とか、強姦の多発をふくむ日本軍の中国での残虐行為とかを記述している。(略)
というのは、これに先だち、一九六三年の新訂版では、わずかに「戦争は『聖戦』として美化され、日本軍の敗北や戦場での残虐行為はすべて隠蔽されたため、大部分の国民は、真相を知ることもできず、無謀な戦争に熱心に協力するよりはかない状態となった」という程度の抽象的記述さえも検定はこれを容認せず、この文章が不合格理由の一となっていた。
国家管理のもとでの教科書画一化の恐ろしさ
一九八〇年と八三年との二回にあたる改訂申請に当っては、七三一部隊、日本軍の中国での強姦多発、シンガポール・フィリピンでの住民虐殺など、『太平洋戦争』ですでに読書界に公表ずみの事実をなるべく多く盛りこもうと試みた。ところが、一九七〇年の検定違憲の東京地裁判決(杉本判決)によってやや弱腰になったかのように見えた検定当局に対し、政界・財界から鞭撻が加えられた結果、検定はふたたび強化された。今まで合格本に載っていた「日本の侵略」、南京大虐殺、新に加えたシンガポール・フィリピンでの住民虐殺などまでに修正意見(修正しなければ不合格になる検定意見)がつけられ(そのうち、シンガポール・フィリピンでの住民虐殺については、異議申立が認められ、修正しないですんだ)、七三一部隊と日本軍の強姦とは削除を余儀なくされた。その経過の詳細は紙幅の余裕がないので省略するが、一九九三年名書刊行会発行「『密室』検定の記録」に具体的に書かれているので、興味のある方はそれをごらんになっていただきたい。(略)
日本国民の多数が、戦争中の日本が旧植民地・占領地で何をしたかを具体的に知り、率直な自己批判を深め、日本政府をして公式に日本の過去の責任を告白させないかぎり、日本の戦争責任を完全に清算することはできないであろう。また、上述のとおり、検定によって戦争の具体的実態を書けないようにされてきた学校教科書で勉強してきた戦後世代の人々も、戦争についての実態を学び直し、戦後責任のにない手としての自覚を深めてほしいと要望しないではいられない。
教科書の自由発行・自由採択を
九四年度の検定では、従来と大きく変わってきている。私の教科書は、この版から五人の共著となり、近現代の部分は大日方純夫氏に大幅な添削をお願いしたが、「日本の侵略」、南京大虐殺、「日本軍の残虐行為を告発する抗日壁画」、七三一部隊での生体実験、朝鮮における「皇国臣民の誓詞」斉唱の強制、「創氏改名」政策、朝鮮人・中国人の強制逆行、従軍慰安婦など、今まで検定意見をつけられたり、たぶん意見をつけられるにちがいないと心配していた部分がすべてフリーパスしている。(略)
しかし、検定制度が維持され、不合格の危険が最後までわからないしくみとなっている現状では、執筆者の良心を完全に満足させる教科書は制作できない。私も中国での強姦その他は自己規制して書かなかった。自由発行・自由採択の日の到来を切望してやまぬ。
いえなが さぶろう・東京教育大学名誉教授 一九一三年、愛知県生まれ。
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1970年杉本判決の頃より、はるかに2015年の検定のほうが規制されているのでは。文科省も安倍政権のいいなりなのだろう。



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